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リスニングにおいて「英語を聴いて理解する」ために必要な基礎スキルについてまとめます。
①はじめに
リスニングの力はただ闇雲に英語を聞くだけで上がるものではありません。
また公式問題集を使って練習を繰り返せばスコアが上がるものでもありません。
「リスニングのメカニズム」に基づいた「適切なトレーニング」に取り組んで初めて結果が出るようになります。
IELTSでスコアを獲得するには2つの力が必要
- リスニングに限らず、リーディング、ライティング、スピーキングのセクションにおいて2つの力が必要
- 「そもそも英語が理解できる・使える」ための「英語基礎力」
- 「IELTS基準で正解できる・評価される」ための「IELTS対応力」

リスニングでより重要なのは「英語基礎力」
- リスニングでは「英語基礎力」の比重部分が圧倒的に大きい。IELTS向け対策の比率は大きくなく、英語が出来さえすれば比較的スコアに直結しやすい。
- リスニングセクションでハイスコアを獲るためには、とにかく「英語が聴き取れる」状態にすることが優先であり、そこがクリアされれば必然的に高いスコアに近づく。
- 逆に「英語が聴き取れない」状態で、どれだけIELTSの問題を解くためのテクニックに精通しようとも、努力に応じたスコアは獲れない。
基礎力は分解して1つずつ積み上げるのが効率的
- リスニングにおける「英語基礎力」はさらにいくつかの「基礎スキル」の集合体として出来上がっている。
- これらの基礎スキルを一度にまとめて高めていくのは非効率的であり、分解した基礎スキルを1つずつマスターしていくことがより効率的。
- 英語を聴き取る力を、基礎スキルに分解して、それぞれを適した形でトレーニングしていくことによって、短期間で伸ばすことが出来る。
例えば、水泳のクロールをマスターするのに、いきなりクロールの練習をせず、以下のような個別のスキルに分解して、1つずつマスターしていくのと同じ。
- 顔を水につける技術
- 体を水に浮かせる技術
- 足を動かして前に進む技術
- 手を動かして前に進む技術
- 息継ぎをしながら継続して前に進む技術
②リスニングのための3つのステップと4つの基礎スキル
基礎スキルを理解するために、耳から入ってきた音が脳の中でどのように理解されるのか、というメカニズムを確認しましょう。
リスニングは3つのステップで行われている

- 最初に耳から音が入ってくる。この段階では英語はただの「音」に過ぎない。
- この音を理解する最初のステップは、脳内にある単語リストと耳から聞こえた音とをマッチングさせて、どの単語かを認識するステップ。音が脳内単語リストとマッチングできたら、そこで初めてその音が何の単語かが認識できる(ステップ1:単語認識)。
- 次に聞き取れた単語の並びから構文を解釈していく。このときも聞き取れた単語と脳内にある文法知識を組み合わせて解釈することになる(ステップ2:構文追跡)。
- 単語と構文が聴き取れたらそこで初めて意味の理解ができる(ステップ3:意味理解)。
リスニングの3ステップが分かると、リスニングでよく見られる症状が、どのステップが原因で起こるのか、そして、その症状に対してどういう方針で対策していけばよいのかがよく分かります。
症状1:リスニングスコアが5.0から上がらない(リーディングも5.0など)
原因:脳の中の単語リストと文法知識が不十分
- そもそも十分な数の単語を覚えていなかったり、文法の知識を持ち合わせていないことが多い
- 知らない単語や構文をいくら聞いても意味が理解できないのは当然。

方針:リスニングよりも単語暗記と文法理解を優先する
- この段階はリスニング対策を行うよりも、まず脳内にある単語リストと文法知識を充実させることが最優先。
- この段階でリスニング対策を行っても効果はあまり見られない。
症状2:見たら分かる英文が聞くと分からない(リーディング7.0なのにリスニング5.5など)
原因:ステップ1「単語認識力」が弱い
- 見れば分かる、ということは脳内には単語リストと文法知識は十分備えられている状態。
- しかし、耳で聞いた音が、単語リストと紐づける力が弱いので、聞いたら分からない、という状態になっている。

方針:ステップ1「単語認識」を強化する
- この段階は単語認識の力を強化することに集中する。
- やがて耳から聴いたときの単語の認識率が一定の水準を上回ると、一気に理解が進むようになる。
症状3:リスニングセクションのPart1,4は出来るが、Part2,3が苦手
原因:単語認識はできるが、ステップ2「構文追跡力」が弱い
- Part1と4は書き取り系の問題(穴埋め問題)が多く出題されるが、この問題は主に単語が聴き取れているかを問われるため、正解率が高ければ単語認識の力はあると考えて良い。
- 一方Part2と3は、選択系の問題(選択肢問題、マッチング問題、地図問題)が多く出題され、これらは単語認識だけでなく、構文追跡の力が問われる。これらの問題が苦手ということは構文追跡の力に課題があることを示している。

方針:ステップ2「構文追跡力」を強化する
- この段階は構文追跡に集中してトレーニングを行うことで、単純な英文だけでなく、複雑な表現や言い回しでも理解度が上がるようになる。
症状4:日常会話の聴き取りは苦労しないのにIELTSリスニングは6.5止まり
原因:単語認識、構文追跡はできるが、ステップ3「意味理解力」が弱い
- 日常会話が聴き取れるということは「単語認識」「構文追跡」はある程度できていて、英文の骨格は理解できる状態。
- ただ、時制、助動詞、前置詞の違いなど細かいニュアンスまで聴き取る必要が少ないため、そういった部分を聴き流していたり、無視したりするクセがついている可能性がある。
- 一方IELTSのリスニングでは時制、助動詞、前置詞の違いなど細かいニュアンスまで聴き取らないと回答できない問題などが含まれるため、それらに対応できていない。

方針:ステップ3「意味理解力」を強化する
- この段階は細かいニュアンスまで正確に聴き取るトレーニングを行うことで、聴き逃しを減らし、取りこぼしている問題を正解に導くことができるようになる。
「単語認識」⇒「構文追跡」⇒「意味理解」という3つのステップをスムーズに行うために鍛えるべき4つの基礎スキルがあります。
基礎スキル1:「単語認識力」
- 耳から入ってきた音を頭の中の単語リストとマッチングさせて単語を認識する力
- 重要なのが「カバレッジ」と「スピード」
- カバレッジに関しては、98%の単語認識ができると苦労なく英文が理解できる(参考:「語彙カバレッジ98%の法則」)
- スピードについては、音と単語リストのマッチングまでに1秒かかると、その間に次の単語が入って来て、英文スピードに脳処理が追い付かなくなる。英語のスピードについていけるようになるには0.5秒以内で認識できるようにしたい。
基礎スキル2:「構文追跡力」
- 聴き取れた単語と脳内にある文法知識を組み合わせて、構文を追跡していける力
- 主節の主語・述語や従属節の構造を90%以上認識できる状態にもっていきたい。
基礎スキル3:「細部理解力」
- リスニングの「意味理解」をサポートするスキルで、時制、助動詞、前置詞など、文章の骨格ではないが、細かいニュアンスを伝える単語を聴き取り、かつそのイメージを意味として理解できる力
- 時制、助動詞、前置詞、単複などニュアンスを伝える言葉も90%以上聴き取れる状態にもっていきたい。
基礎スキル4:「自動解釈力」
- リスニングの「意味理解」をサポートするスキルで、単語認識や構文追跡、細部理解などを無意識に行い、英語を文字情報ではなく、映像化してイメージとして捉える力
- リスニング時に意味理解に集中できて、脳内では内容が文字情報ではなく映像で浮かぶ状態を目指したい。
IELTSリスニングスキルマップ詳細編では、これら4つの基礎スキルを順にマスターするロードマップをお伝えしております。

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